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2021年、2022年

 今、僕は『すずめの戸締まり』というアニメーション映画を作っています。
 先日制作発表会見を行わせていただきました。でも実は、本当は会見なんて大袈裟なことはやらずに、じっくり完成させてから「出来ました」とご報告した方がずっと気が楽なのです。それでもああいう場を設けたのは、皆さんに報告したかった気持ちもありますが、なによりも「映画興行」にしたいという思いが個人的にはありました。「今こういう映画を作っています。完成したら劇場でかけてもらえませんか」と、映画を仕事にする人たちに伝えたかったのです。今は配信であらゆる作品を観ることが出来るけれど、劇場にしかない「映画体験」というものはあるだろうし、それはけっこう捨てたものでもないのではと、僕は未だに思っています。

 さて、そういう裏話はともかくとして、今作はとても難産しています。ずいぶん難しい映画を作り始めてしまったんじゃないかと、制作をしながらたびたび思います(作品そのものは楽しいエンタメなのですけれど!)。
 思えば『君の名は。』は、当時までの自分の人生の集大成のようなもので、スタジオでの制作作業はともかくとしても、設計図たる絵コンテではそれほど苦労した記憶はありません(忘れてるだけかもしれないけど)。『天気の子』も、『君の名は。』の結果から導かれるようにして描くべきコンテが見えていたような気がします(忘れてるだけかもしれないけど)。
 飜って今作では、もともと自分の中にはなかったものを描こうとしているのではないか、と時々不安になります。記憶もなくノウハウもなく、暗闇を手掛かりもなく歩き続けているような心持ちがずっと続いています。面白い映画にするための努力はすべて注いでいるつもりではあるけれど、そもそもの資格や能力が自分には足りないのではないかと、気づけばぐずぐずと悩んでしまったりしています。

 ただ一つだけ、慰めがあります。それだけは確かだと分かっていることがあります。
 それは、毎日一文字だけでも、一本の線だけでもいいから、年単位で毎日書き続けてさえいれば、結局は映画は完成するのだということです。書きたくなくても描けなくても、必ず毎日書いて、描き続けること。結局のところ必要なことはそれだけだと、僕は経験的に知っています。20年近くこの仕事を続けてきて映画作りはあまり巧くなってはいないけれど、これだけは知ることが出来ました。

 そんなことを自分に言い聞かせながら机に向かっていたのが、僕のこの一年でした。皆さんはどんなふうに過ごしていらしたのでしょう。お互いに、2022年は今よりも明るい場所を歩けていると良いですよね。『すずめの戸締まり』も楽しみにしていてくださいね。
 皆さま、どうか良いお年をお迎えください!

2021年12月31日 新海誠

2021-2022

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